手首や親指を動かすとズキンと痛む。
手の腱鞘炎は、非常に頻度の高い疾患のひとつです。今回は、腱鞘炎とはどういうものなのか?治し方はどうすれば良いのか?についてご紹介していきますので、是非ご参考にしてみて下さい。
腱鞘炎てどんな病気?
腱鞘炎とは、20~50歳代の女性に多い疾患です。その名の通り、腱鞘に炎症が起こる状態です。
筋肉の両端は「腱」という組織になっています。手や指を動かすと、筋肉が伸びたり縮んだりして、その腱が引っ張られて、スライドするように動きます。その腱を取り巻くように、「腱鞘」とよばれる筒状のものがあります。腱鞘の「鞘」は「さや」の意味です。つまり、トンネル状の腱鞘の中を、腱が通っており、手や指を動かすことで、腱が腱鞘の中をスライドするように行ったり来たり動くのです。通常は、腱は腱鞘の中をスムーズに動いていますので痛みを感じることはありません。しかし、手や指を使いすぎたりすると、腱鞘と腱の繰り返される摩擦によって炎症が起こってしまいます。すると、腱は肥厚して、腱鞘の中での動きがスムーズでなくなってきます。こうなると余計に腱と腱鞘の摩擦が強くなり、炎症が悪化して、結果的に、手や指を動かすたびに痛みを伴うということになります。これが、腱鞘炎です。
手の腱鞘炎で代表的なものが2つあります。
- ばね指
- ドケルバン病
これらは、狭窄性腱鞘炎とも言われます。
ばね指
ばね指は、指の付け根の関節や、第二関節に痛みが出ることが多い腱鞘炎です。痛みに加えて、指を伸ばす時に引っかかることもあります。
手のひら側には、指を曲げる筋肉の腱がそれぞれ通っています。指の関節には腱鞘が存在しているのですが、ばね指は、指の根本の関節や第二関節の腱鞘で、炎症が起こった状態です。指の使いすぎによって炎症が起こり、腱が肥厚します。肥厚した腱は、腱鞘の中をスムーズに滑走できなくなり、引っかかってしまうのです。指を曲げて伸ばす時に引っかかるので、反対の手で戻さないと伸びなくなります。伸ばす時に「カクンッ」となるので、弾発指とも言われます。
ドケルバン病
ドケルバン病は、手首の親指側に痛みの出る腱鞘炎です。
親指を広げると、手首の親指側に二本の腱が浮き出てきます。これは、親指を伸ばす短母指伸筋の腱と、親指を外に広げる長母指外転筋の腱です。手首の部分には骨の隆起があり、そこに腱鞘があり、その中をこの二本の腱が滑走しています。親指や手首を使いすぎると、この部分に炎症が起こって、痛みが出てしまいます。
なぜ腱鞘炎になるの?
使いすぎ
指をよく使う仕事の人やスポーツをしている人、スマホの使い過ぎ、家事でも指は酷使されています。
最近は、スマホやゲーム、パソコンなどの進化によって、手や指を酷使する人が急増しています。スマホは日常生活でも欠かせないツールの一つとなっている現状があります。そのため、手首や指への負担を減らすのがむずかしくなってきています。「スマホ腱鞘炎」と言う言葉もあるくらいなので、それだけ我々は、手や指を酷使しているということです。
女性ホルモンの影響
更年期の女性や、妊娠出産の時期は女性ホルモンのバランスが変わります。20~50歳代の女性に多い理由として、妊娠出産や、更年期での女性ホルモンのバランスの乱れが、深く関係していると考えられています。女性ホルモンには2種類のホルモンがあり、エストロゲンとプロゲステロンというホルモンがあります。
・エストロゲン
エストロゲンの作用のひとつに、靭帯や腱鞘を柔らかくし、弾力性を保つ働きがあります。更年期を迎えるとエストロゲンの分泌量が減少します。それによって、腱鞘の柔軟性がなくなり、腱鞘炎になりやすくなるのです。
・プロゲステロン
プロゲステロンの作用のひとつに、靭帯や腱鞘などを収縮させる作用があります。出産後は、プロゲステロンの分泌量が増加して、開いた骨盤を元に戻そうとします。これにより、腱鞘が硬くなって腱鞘炎になりやすくなるのです。しかも、この時期はちょうど赤ちゃんの抱っこや育児で、手をよく使う時期と重なるので、腱鞘炎のリスクが高くなります。
腱鞘炎はどんな症状がでるの?
- 押さえた時の痛み・腫れ
- 指や手首を動かした時の痛み
- ばね指の場合は、引っかかりのある弾発症状
- ドケルバン病の場合は、親指を動かすと手首に痛みが出る
- 最初は違和感から始まることが多い
腱鞘炎の治し方は?
腱鞘炎を治すには、大きく分けて2つの治療法があります。
- 保存治療
- 手術
保存治療
注射
病院に行くと、痛みが強い場合は、ステロイドの注射を打つことがあります。ステロイドとは副腎皮質ホルモン剤のことで、炎症を抑える効果があります。ステロイドは炎症を抑える効果が高いので、1回の注射で痛みが取れることもあります。
ストレッチ
筋肉の硬さがあると、両端の腱には引っ張られるテンションがかかりやすくなります。ですので、筋肉の柔軟性を獲得するのは大切です。
方法
まず、片手を前に出して、肘を伸ばします。そして、手の平を上に向けます。反対の手で、4本の指を持ち、下に反らすようにストレッチをかけます。肘から手首までが伸びているのを感じます。また、指先を持って、手の平から指まで伸ばすと、指の筋肉がさらに良く伸びます。
反対側を伸ばす場合も同じ要領で行います。手の平を下に向け、反対の手で、手の平が自分の方に向くように伸ばしていきます。さらに、その状態から、指を握るように曲げていくと、よりストレッチがかかります。
ストレッチをする際の注意点としては、痛みが出るまでしないこと。痛みが出ないように角度を微調整して行ってください。痛みを我慢して行うと、余計に悪化することもあります。何をしても痛い場合はやらない方が良いです。
固定
腱鞘炎が、手の使い過ぎによって発症しているなら、まずは、手首への負担を減らすように、できるだけ安静にした方が良いです。しかし、手は日常的に非常によく使う部位なので、固定をするという方法があります。固定には色々と種類があり、痛みの度合いや、生活環境によって使い分けをします。
シーネ
シーネの作成は、手首の形や指の関節の角度に合わせて板を固めます。関節の角度が一定に保てるので、安静を保ちやすいです。シーネに患部を添えて、その上から包帯を巻いて固定します。包帯を外せばシーネも外れるので取り外しが可能です。手首や指を固定しても生活に支障のない場合はシーネ固定が有効です。
サポーター
サポーターは、シーネのような固定力はないですが、手首を普段から比較的よく動かす場合は、サポーターをすることで、ある程度、動きが制限できます。これによって、手首にかかる負担を減らすことができます。取り外しがスムーズにできるので便利です。
装具
装具にも種類がたくさんあり、患部の部分は硬いプラスチックでできており、マジックテープで止めるものが多いです。プラスチックなので、シーネのように関節の動きは固定できます。シーネよりも自分で取り外しがしやすいです。
テーピング
テーピングの種類は、伸縮性のものから、非伸縮性のものまであります。水に濡れると剥がれやすいですが、テーピングのメリットとしては、テープの種類や、貼り方、テンションのかけ具合によって、固定の強度や制限したい動きを調整することが出来ます。また、貼り直しや、組み合わせて貼ることができます。
整体
腱鞘炎の原因は、手の使い過ぎと、女性ホルモンの乱れということですが、実は身体の歪みも大きく関係しているのです。体の歪みを整えることで、腱鞘炎が改善する事は珍しくありません。つまり、歪みがある状態で手や指を使いすぎると、腱鞘炎になりやすいということです。
全身のつながり
片方の上肢(肩から指先)だけで、30個以上の骨があり、その周囲にはたくさんの筋肉がついています。指や手首を動かす筋肉は、肘の骨に付いているものもあるので、指や手首を動かすと肘に負担がかかります。肘を動かす筋肉は、肩甲骨に付いている筋肉もあります。指や手首を動かす筋肉と、肘を動かす筋肉は、肘の部分で筋膜でつながっています。ということは、肩甲骨に問題があると指や手首に影響が出ることもあるということです。さらには、肩甲骨と骨盤とつなぐ大きな筋肉もあります。骨盤の歪みが肩甲骨を介して指先に出ることもあるのです。これは、上肢だけではなく、体の至るところにこのようなつながりがあるのです。つまり、全身はつながっているということです。
歪みを整える
全身のつながりがあるということは、指や手首に痛みが出てても、そこだけ治療をしても根本的な改善にはならないということです。きちんと原因を見つけて、原因に対してアプローチすることが重要なのです。
女性ホルモンのバランスを整える
整体の方法によっては、歪みはもちろんですが、自律神経も整えることが出きるので効果的です。自律神経は交感神経と副交感神経からなり、この2つの神経がバランスをとりながら、無意識下で私たちの体をコントロールしている非常に重要な神経です。そして、この自律神経は、女性ホルモンとお互いに影響しあうので、自律神経を整えると、女性ホルモンのバランスが整いやすくなるのです。
手術
保存治療を数ヵ月行っても痛みが改善しない場合は手術の適応になります。手術は腱鞘切開術が行われます。これは、原因になっている腱鞘を切開して、腱をスムーズに滑走させることを目的として行います。
- 直視下腱鞘切開術
- 皮下腱鞘切開術
直視下腱鞘切開術
直視下腱鞘切開術は、皮膚を数センチ切開して、原因になっている腱鞘を切開します。そして、腱がスムーズに滑走していることを確認できれば終了です。術後に、皮膚を縫合します。抜糸は約1週間後で、手術時間は20~30分です。
皮下腱鞘切開術
皮下腱鞘切開術は、特殊な細いメスで、腱鞘だけを切開します。皮膚を切開しないので傷が小さく、回復が早いのが特徴です。手術時の傷は、ほんの小さな穴だけなので、皮膚を縫合する必要もありません。手術時間も5分ほどで、日帰りでできます。皮下腱鞘切開術の方が、入院や通院の必要性も少ないので、時間的、経済的にもメリットが大きい術式です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?手が痛いからといって、手ばかりを治療してても改善しないことも多いのが現状です。なかなか改善が見られなかったり、手術をする前に一度、全身の状態をチェックすることをおすすめします。改善につながるきっかけが見つかるかもしれませんよ。