晩婚化が進む中で、最近は「体外受精」という言葉をよく耳にします。
実際に体外受精で子供を授かった人もたくさんいます。
そんな体外受精とはいったいどういうもの?
と気になる方も多いのではないでしょうか。
今回は体外受精について解説していきます。
妊娠とは
まずは、妊娠までの流れです。
排卵→受精→着床(妊娠)
このような流れで妊娠は起こります。
不妊症とは
「不妊症」とは、避妊をしないで夫婦の性生活を送っているにもかかわらず、1年たっても妊娠しないものをいいます。
健康な男女が、その性周期に合わせて性行為を行った場合、妊娠する確率は約25%といわれています。
一般的には、避妊せず通常の夫婦の性生活を送っていれば、だいたい結婚して半年で7割、1年で9割、2年で10割が妊娠するといわれています。
不妊症の原因
不妊の原因は様々で、女性側、男性側、あるいはその両方の場合がありますが、何も原因がない場合もあります。
WHO(世界保健機関)が発表した不妊症原因の統計では、40%が女性側、25%が男性側、25%が女性男性両方、10%が原因不明となっています。
女性の原因
- 排卵障害
排卵がなければ卵子が排出されないので、妊娠は起こりません。
- 卵管障害
卵管の詰まりや、癒着、炎症によって妊娠できにくいものです。
- 子宮障害
受精卵が子宮内膜に着床できないことによって不妊の原因となります。
- 頸管障害
子宮頸管の粘液の分泌量が少なくなったり、精子が通るのに適していないと、妊娠が起きにくくなります。
- 免疫障害
免疫異常によって「抗精子抗体」という抗体が、精子を攻撃してしまうことで不妊の原因になります。
- 原因不明
原因不明不妊は約10%と言われています。
男性の原因
- 乏精子症
- 無精子症
- 精子無力症
- 精索静脈瘤
- 無精液症
- 先天性精管欠損
- 勃起障害(ED)
不妊症の治療法
不妊症の治療法は、基本的に排卵のタイミングを狙って性行為をしてもらう「タイミング法」からスタートし、妊娠しなければ「排卵誘発剤」の使用、それでもだめなら「人工授精」と徐々にステップアップして行われます。
タイミング法
↓
排卵誘発法
↓
人工授精
↓
体外受精・顕微授精
というふうに、ステップアップしながら治療を進めていきます。
この中で今回は体外受精について説明していきます。
体外受精(IVF)とは
体外受精とは、女性の体内から卵子を取り出し、その卵子と精子を体外で受精させて、子宮内へ移植する方法です。
取り出した卵子に精子をふりかけて、精子が自力で卵子に侵入して受精させる方法です。 受精した受精卵は、一定期間培養したあとに、卵子に戻します。1つの卵子に対して10~20万個の運動率の高い精子が必要になります。
ちなみに、正常の精液所見では精子濃度は1ml中に1500万個以上です。
タイミング療法や人工受精では、体内で精子と卵子が受精しているかどうかは分かりません。一方体外受精では、受精させた上で子宮に戻すので、その後は受精卵が子宮内膜に着床すれば妊娠となります。
2015年の1年間でも、全国で約42万件の体外受精が行われました。この年に出生した赤ちゃんの約20人に1人は体外受精で出来た子どもとなります。
顕微受精との違い
顕微受
精は体外受精の一つで、同じように卵子を取り出し、その卵子と精子を体外で受精させて、子宮内へ移植する方法です。名前の通り顕微鏡下で卵子の中に精子を注入する方法です。体外受精との違いは、受精の方法が異なります。精子が自力で卵子に侵入するか、精子を卵子に直接注入させるかの違いです。
顕微授精は、卵子1個に対して精子1個で良いので、精子の数が少ない乏精子症や、元気な精子が少ない精子無力症など、造精機能の障害のある方は妊娠の確率が上がります。
体外受精でも妊娠が難しいと判断された場合は顕微授精の適応となります。
体外受精の適応は?
2014年の日本産婦人科学会によると、「これ以外の治療によって、妊娠の可能性がない、もしくは極めて低いと判断されるもの」「治療を受ける人、または生まれる子供にとって有益であると判断されたもの」を体外受精の対象とするとされています。
基本的には、タイミング法や人工受精で妊娠に至らなかった場合など、重度の不妊に適応になります。
不妊原因としては
- 「卵管障害」
- 「重度の男性不妊」
- 「抗精子抗体」
- 「子宮内膜症」
- 「原因不明不妊」
といった人工受精では妊娠が難しいものから、人工受精を3~6回実施しても妊娠に至らなかった方が対象となります。
また年齢が40歳を超えている場合や検査結果によっては、タイミング療法や人工受精のステップを踏まずに一気に体外受精を行う場合もあります。
体外受精の流れ
1、卵胞の成熟と排卵誘発
体外受精を成功させるためには、より質の高い卵子をいかに多く採取できるかが最も重要になります。
その際に使用される排卵誘発剤は、卵胞の成熟と排卵を誘発する働きのある薬で、より質の良い成熟した卵子を採取するために採卵に先駆けて投与されます。
排卵誘発剤を内服薬で投与する回数や頻度などは、子宮や卵巣の状態、血液中のホルモン量や体の状態によって決められます。その人の経過によって量を調整したり、誘発剤を変えたりと、その人にあった方法を選択することが重要になってきます。
排卵誘発法には高刺激法と低刺激法があります。
高刺激法
高刺激法は、hMG製剤を数日間注射して排卵誘発を行うことが基本の方法で、自然排卵を抑えるための薬の種類や使い方によっては、方法の名前が変わります。
そして卵巣の機能に合った数の卵子を取ることができるメリットを備えています。そのため、できるだけ多くの卵子を採卵できるように、その中からより質の良い卵子を選ぶことができるので、低刺激法よりも妊娠率が高くなります。
また多くの胚を凍結しておけるのも高刺激法のメリットです。
低刺激法
低刺激法は、クロミッドなどの内服で排卵誘発することが多いですが、時には少量のhMG注射を行うこともあります。
低刺激法では副作用の発生率が低いというメリットの他にも、通院回数と薬剤使用が少ない点や、その分費用が安価になるというメリットもあります。
より自然排卵に近い状態を選びたい場合は低刺激法を選択することになりますが、その方法がその人に合うかどうかは、総合的に判断する必要があります。
2、採卵・採精
採卵
卵胞が十分に成熟し、18㎜以上の卵胞が2個以上になったら採卵日が決まります。
採卵の前々日の夜に、排卵を促すhCGという注射を打ちます。それを打つことで排卵が促進され36時間後に排卵となります。その直前に成熟した卵子を採卵します。
採卵は麻酔なしで行うことも多いため、採卵針を卵巣に刺すときにチクチクとした痛みを感じる人もいます。また、局所麻酔や静脈麻酔をする場合、麻酔が切れたあとに下腹部が痛むケースもあります。
採精
男性の場合は、病院の採精室で採精するか、自宅から精子を持参します。
採取した精子を洗浄・濃縮して残った精子のうち運動率の高い精子を使用します。
3、受精・培養
採取された卵子と精子を「シャーレ」と呼ばれる容器の中で卵子に精子をふりかけて、人間の卵管に限りなく近い環境が整えられている「インキュベーター」にて培養し受精させます。体外での受精ですが、受精は卵子と精子が持っている自然の力に任せます。精子が自力で卵子に侵入し受精するのを待ちます。受精自体は、より自然に近い形になります。
受精が成立すると、数日間、培養液の中で培養されます。受精卵(胚)は細胞分裂を繰り返し、発育していきます。
4、胚移植
胚移植とは、受精卵を培養して子宮に移植することです。細胞分裂は、受精後の1つの細胞から2つの細胞に分裂し、4分裂、6分裂、8分裂と徐々に細胞が分裂していきます。分裂のスピードは受精後1日目〜3日目で4分裂、2日目〜3日目で8分裂まで進むのが一般的な速度です。その培養日数によって移植の名前は異なります。
初期胚移植
受精後2~3日目になると「初期胚」と呼ばれます。受精後2日目で4分裂以上、または3日目で6分裂以上になった初期胚を子宮内に移植することを初期胚移植と言います。
これは培養日数が少ないこと、費用が他の体外受精に比べに低いことから、初期胚移植は比較的多く行われます。
胚盤胞移植
受精後約5~6日目になると「胚盤胞(はいばんほう)」と呼ばれ、着床準備状態にまで成長をします。胚盤胞の状態になると、胚の中央部分は胞胚腔(ほうはいくう)と呼ばれる空洞が見えるようになります。この時点で細胞の数は数十から100個程度まで増えています。この胚盤胞を移植する方法を胚盤胞移植と言います。
初期胚移植でなかなか妊娠に結びつかない場合に適応となります。胚盤胞移植は妊娠する確率は上がりますが、初期胚移植と比べて多胎児になるリスクが高くなります。
多胎妊娠のリスクを回避するため、1回に移植する胚の数を制限することがあります。一般的には34歳未満の方は1個、35歳以上の方は2個までと決められております。
5、妊娠判定
胚移植から子宮で着床するまでの期間は、だいたい3~5日だといわれています。しかし、一定基準のhCG濃度がなければ検査をしても陽性反応が出ませんから、妊娠していたとしても、あまりにも早い段階では陽性にならないのです。
胚移植後の妊娠検査では一般的に、移植後12~14日、胚盤胞移植では5~11日目に行います。
妊娠の確率
体外受精における年齢別の妊娠・出産・流産の確率です。
30歳 妊娠率は約40%・出産率は約22%・流産率17%
35歳 妊娠率は約37%・出産率は約18%・流産率22%
40歳 妊娠率は約25%・出産率は約8%・流産率35%
体外受精を行った場合でも、妊娠率と出産率は自然妊娠と同様に年齢を重ねると低くなり、逆に流産率は上がっていきます。
体外受精にかかる費用は?
体外受精を行うにあたって気になるのが費用です。
体外受精は人工受精と同様で、自費診療なので保険が適用されません。
使用する注射の種類や採卵の個数、胚移植の方法、実施する医療機関などによって費用は変わります。だいたい1周期あたりの費用は30~50万円程度となります。
国や地方自治体からの補助金や助成金制度もあり、うまく活用することで高額になりがちな不妊治療の治療費用を抑えられる場合がありますので上手に活用しましょう。