病院に行って「外反母趾」と言われたことはありますか?
親指がくの字に曲がっていて、靴を履くと付け根が痛くないですか?
今回は、その外反母趾の治療法について詳しく説明していきます。
外反母趾とは
外反母趾とは、足の親指が人差し指の方へ向き、付け根の関節が、くの字に曲がってしまったものです。
くの字に変形をすると、親指の付け根の関節の内側にバニオンと呼ばれるタコを形成し靴を履いたときに圧迫されて痛みや赤く腫れ上がったりします。
原因
原因としては、先が細い靴やハイヒールなどの、足に合わない靴を履いた生活環境や、足の使い方、ホルモンの影響、遺伝的要因など様々で、多くは、足の機能的構造の破綻によって発症します。
くの字に曲がった関節の角度が20度以上で外反母趾と診断されます。
この角度はHV角とよび、この角度によって重症度が分類されます。
・軽症 :20~30度
・中等度:30~40度
・重症 :40度以上
・重症 :40度以上
外反母趾は、靴の歴史の長い欧米人に多い病気でしたが、最近は生活スタイルの欧米化が進み、日本でも急速に増えています。それに伴い、わが国でも外反母趾に対する研究が進歩するようになってきました。
男女比は1:10と圧倒的に女性の方が多い疾患です。
足の重要機能「アーチ」
治療法を説明する前に、足部の機能で非常に重要になる「アーチ」について説明していきますね。
足部には3つのアーチがあります。
足を上から見てください。
親指の付け根、小指の付け根、踵、の3つの点を結ぶと三角形ができます。その三角形のそれぞれの辺が3つのアーチです。
- 「内側縦アーチ」親指の付け根から踵にかけてのアーチ(土踏まず)
- 「外側縦アーチ」小指の付け根から踵にかけてのアーチ
- 「横アーチ」親指の付け根から小指の付け根のアーチ
それぞれのアーチは、ドーム状になっており足の裏の立体的な構造を形成しています。
その役割は、体重支持、衝撃吸収、歩行の推進、安定化などです。
足の裏は唯一地面と接する部分なので、このアーチは人間が歩行をする上で非常に重要な機構となります。
アーチは骨、靭帯、筋肉、腱によって支えられています。
このアーチが崩れることが外反母趾になる原因です。
治療法
治療法には大きく分けて、保存療法と手術療法があります。
保存療法
変形を元に戻すことはできませんが、痛みを緩和させることはできます。
では、保存療法にはどのようなものがあるのでしょうか。
①運動療法
運動療法の目的としては、足の親指の付け根の関節部分が曲がって変形した状態で固まってしまうのを防止することと、弱くなった筋肉のトレーニングです。
運動療法は何種類かあります。
ホーマン体操
これは、まず厚めのゴムを両方の親指に引っ掛けて、かかとをくっつけます。
その状態で、足を外側に広げていくと、くの字に変形した親指を内方へ引き寄せることができ、正常な角度へ近づけていくという体操です。
外へ開いて10秒間キープします。10秒たったら左右の足を元に戻します。(1セット30回、1日2セット)
タオルギャザー
これは、床にタオルを敷き、その端を足の指でつかみ、手前にたぐり寄せる運動です。
これによってアーチの構成する筋肉が鍛えられます。
母趾外転筋訓練
グーの形を作るように両足の指を軽く閉じて、指に力を入れてパーの形に広げます。この時に両方の親指を近づけるようにおもいっきり広げて、10秒間キープして、元に戻します。(1セット30回、1日2セット)
これによって、親指の角度を数度減らすことができますし、外反母趾でない方には予防運動にもなります。
可動域訓練
自分で運動しながら動かしていくことも大事ですが、自分では限界があるため、治療院などで専門の人に、硬くなった親指の関節やその周囲の関節、筋肉をストレッチして動かしていくことも大切になってきます。
②装具療法
装具療法には、痛みのある部位を除圧する目的のパッド、歩行時や夜間に使用する矯正装具、足底板挿入があります。
保存療法として最も有効的と言われているものが、アーチサポートのある足底板を用いた治療法です。
アーチサポートをインソールとして靴の中に挿入することにより、足裏から崩れたアーチを持ち上げて、矯正するものです。
人それぞれ足の形状が違うため、その人の足の形状にあった足底板を、オーダーメイド作成しなければいけません。
足底板の作成は、足を石膏や特殊なスポンジで型取りをし、内側縦アーチ、外側縦アーチ、横アーチを適切に形成するための凹凸の位置や高さに注意しながら正確に作成していきます。
また、タコができていて痛みを伴うような場合では、その部位に凹みをつけたり、柔らかい素材にするなどの工夫を加えながら作成していきます。
③靴の見直し
最近では、おしゃれを優先して多少自分に合ってなくても我慢して履いている人が増えています。足の裏は唯一地面と接する部分なので、靴選びは非常に大事なります。
幅が広すぎても良くないですし、もちろん小さすぎるのも良くありません。
自分の足に合ってない靴は、外反母趾の要因となるので自分の足に合った靴を履きましょう。
子供の外反母趾
最近では、子供の外反母趾の発症が増えてきています。
その理由としては、子供の足にサイズや形が合っていないことです。「子供だしどうせすぐに成長して足が大きくなって、履けなくなるから」と大き目の靴を履かせることで、足の裏を正しく使うことができなくなってしまいます。
これでは足の筋肉がしっかり発達せずに成長してしまい、アーチの形成ができず、扁平足になってしまいます。これは将来的に外反母趾の引き金になってしまいます。
ですので、小児期からの靴選び、指導が外反母趾発症の予防につながります。
④テーピング
くの字に変形した親指の関節を、元の角度に戻した状態で、伸縮性のあるテーピングを貼ります。
これだけでも効果はあるのですが、これと組み合わせて貼るのも効果的です。
親指側と小指側を手で握ると横アーチが形成されます。その状態でぐるっと一周テープを巻くことで横アーチを保持した状態で固定できます。
テーピングはその人の状態に合わせて貼ることが重要です。
⑤歩行指導
外反母趾や扁平足の人の歩き方を観察していると、足の裏全体でペタペタ歩いている人が多いです。
この歩き方は足の裏の筋肉が使えていないということです。
正しい歩き方は、ゆりかごの動きのように滑らかに移動させる歩き方です。
踵から地面に着いて、踵→足の裏→指の付け根→足の指の順に後ろから前に体重を乗せて歩く意識です。
これをすることで足の裏の筋肉を使った歩き方になるのです。
⑥薬物療法
局所の炎症である外反母趾の薬物療法は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)入りの湿布剤や軟膏、クリームなどの薬を使用します。一般的には単独の使用ではなく、装具療法などと併用して使用されます。
手術療法
次は手術療法についてです。
軽症の方であれば、保存療法で症状を緩和させることができます。しかし、保存療法では進行を抑えることしかできず、骨の変形を治すことはできないため、痛みが強く、日常生活に支障をきたす場合には、手術が必要になることもあります。
外反母趾の手術は、なんと200種類以上あると言われています。それぞれ、重症度によって使い分け、または組み合わせて行います。
その中で、代表的な手術法を紹介していきます。
①DLMO(デルモ)法
この手術は、軽度から中等度の症例に適応になり、低侵襲手術です。
局所麻酔で行い日帰りも可能な手術です。
まず、親指の関節のくの字の部分の皮膚を3センチから5センチほど切開し、親指の根本の中足骨という骨の、関節に近い部分を骨切りします。
そして、骨切りした指側の骨片を外側にずらして、正常の角度に戻し矯正します。骨片の内側に沿わせてKirschner鋼線というワイヤーを刺入して固定するという方法です。
骨切りしてワイヤー1本で止めるというシンプルな術式です。
手術時間は約1時間くらいで、入院する場合は1~3日程度です。
術後は、約1カ月でワイヤーを抜きます。
②Mann法
この手術は、中等度~重度の症例に適応になります。
この手術方法はDLMO法と同じように中足骨という骨を骨切りします。
骨切りする部分がDLMO法と違い、中足骨の踵に近い部位を骨切りします。
硬くなった筋肉や周辺組織を切離し、関節部分の骨を少し削ります。
そして、骨切りした指側の骨片をずらして角度を矯正し、数本のワイヤーで固定します。
このMann法は、他の骨切りの手術に比べて、切開の範囲や箇所は増えますが、確実な矯正角度が得られます。
手術時間は約1~2時間くらいで、入院期間は約1週間程度です。
③関節固定術
この手術は、関節の変形が強く、関節面の破壊が進行している重度の症例で適応になります。
破壊が進行した関節の表面を削って切除し、関節の角度を矯正して、ピンとワイヤーで固定し関節を動かなくします。
これは関節が動かなくなりますが、日常生活には支障をきたさないと言われています。
④人工関節置換術
この手術も、関節の変形が強く、関節面の破壊が進行している重度の症例で、関節の可動域を残したい人に適応になります。
関節を部分的に切除し、人工関節に取り換える手術です。関節の可動域を残すことが可能です。
この人工関節は、耐久年数が15~20年とされていることから、基本的にこの手術の適応年齢は60歳以上となります。
手術時間は2~3時間くらいで、入院期間は10日~2週間程度です。
外反母趾の治療法には様々な種類があります。
普段から、歩き方や靴選び、指の運動など、できることから始めていくことが外反母趾の予防につながります。