注射による手根管症候群の治療にはステロイドが用いられます。このステロイドは、日本のなかでイメージがあまりよくはないので、不安を感じてしまう人もいるのではないでしょうか。
ですがステロイド注射は特に負担の大きい治療ではありません。実際どんな方法、どんな回数で行われる治療なのか、そして危険視されている理由などについて解説していきます。
手根管症候群のステロイド注射の概要と負担
手根管症候群のステロイド注射は、直接手根管内にステロイドを注射して、炎症を抑えるという治療法です。ステロイド注射は当日にも効果を実感できるケースが多く、痛みやしびれ、不快感に大きな効果が期待できます。
すぐにこの症状を何とかしたい人にとっては、手術よりも手軽で入院の必要がなく、すぐに効果が見込めるステロイド注射は大きなメリットがあると言えます。
ステロイド注射は一回600円程度
注射そのものは、一回600円程度です。他に初診料や検査費用などもありますが、患者にとって大きく負担になる金額ではありません。
そして回数は1回で効く人もいるし、複数回の注射が必要という人もいます。ですがほとんどの場合は2・3回程度で効果が現れますから、それほど多くのステロイドが必要なわけではありません。
それではどのくらい長い間、ステロイド注射での治療が必要かというと、人によって異なり、1回の注射で効果があるという人もいます。なかなか効果が現れなかった場合は2週間程度です。
ステロイドの手根管内注射はそう長くは行なえません。注射の回数が増えるほど、腱断裂の危険性が上昇する可能性があると言われているからです。日本神経治療学会のガイドラインでは2週間を目処に経過を観察し、その後疼痛の再燃があれば手術を考慮することになっています。また、一時的には効果があってもすぐに痛みが再発する場合も早い段階で手術を進められることがあります。
手根管症候群の再発の可能性はある
ステロイド注射そのものは保存療法でありステロイドの薬理効果、抗炎症作用、免疫抑制作用を期待するもので、腱鞘炎が原因であれば炎症も治まります。
ですが炎症だけが原因で正中神経が圧迫されているとは限らず、またステロイド注射そのもので正中神経を開放することはできませんから、ステロイド注射で治るかどうかはその人の症状次第であり、また一度は改善しても痛みが再発する可能性ももちろんあります。
またステロイド注射に限らず、自然治癒した場合でも手術した場合でも手根管症候群は再発しやすいので、症状が良くなっても負荷をかけすぎないことが大切です。
「アトピービジネス」によって広まった過剰な不安
ステロイドに対して日本では特に不安を感じている人が多く、それが原因で様々な治療の妨げになることすらあるほどです。
その原因のおおもとは、1990年代に、ステロイドのバッシングが広がったことでしょう。ですから手根管症候群に悩みやすい年代の人は過剰に副作用についての不安を感じている人が多いのです。
ステロイドの副作用が広まったのは、実はアトピービジネスと呼ばれる悪徳商法の手口でした。典型的なのは、科学性や信憑性に乏しい情報でステロイドの危険性を煽って不安にさせ、保険が効かないサプリや塗り薬、高額な掃除機を販売するという手法です。
実際、日本皮膚科学会ガイドラインではステロイドに対する不安への対処という項目があり、ステロイド外用薬への必要以上の恐怖感、忌避から期待した治療効果が得られない例が見られると書かれています。
ただステロイドにはもちろん副作用があり、絶対安全というわけではありません。また注射時の痛みも強いほうです。なんとなく危険そうというイメージはいったんリセットし、しっかりと医師の話を聞いて、ステロイド注射を行うかどうかを決めてください。
吐き気や血糖値の上昇などといった副作用がある
ステロイド注射には大きなメリットがあるその一方で、副作用の危険もあります。ステロイド治療は、手根管症候群に限らず様々な病気に対して用いられていて、応用範囲が広いその副作用について耳にしたことのある人も多いでしょう。
特に有名なのは、がんの薬物療法にステロイドを用いた場合の吐き気などが有名かもしれません。ただ、がんの治療で吐き気が誘発されるのは、実のところ使用する抗がん薬の種類によっても大きくかわります。
また、眼圧の上昇、血糖値の上昇、血圧の上昇、躁状態や不眠などの精神障害など複数の副作用があります。
ステロイド注射は副作用もあるが多くの治療法で使われている
ステロイド注射は効果が高く、手術より手軽です。注射の回数は数回程度、2週間程度が治療期間の目安ですが、ステロイド注射は保存療法であり、完治するとは限りません。
また、ステロイド注射に副作用の危険はあるのは事実で、必要以上に不安を感じている人も多いです。ですが、多くの病気の治療法として用いられているため、身体に対する負担が大きいというわけではないと言えるでしょう。
参考:『治療ガイドライン標準的神経治療:手根管症候群』日本神経治療学会
参考:『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2016 年版』日本皮膚科学会ガイドライン
参考:『日本内科学会雑誌第100巻第10号 Ⅰ.ステロイド・非ステロイド抗炎症薬1.ステロイド』大島久二、牛窪 真理、遠藤 隆太、秋谷久美子、田中 郁子
\この記事は私が書きました/